ここが決定的に日本と違うところだ。
話は少し脇道にそれるが、日本の短歌の世界に、「歌壇のカラオケ状況」という言葉がある。 歌人でW大学教授のS幸綱氏が最初にこの表現を使った。
それは、現在の歌人たちが作品を書き、それを発表することには熱心だが、他人の作品を読むことにはあまり熱心でないことを皮肉ったものだ。 つまり、日本のカラオケバーでは、自分が唄うことには一生懸命だが、ほかの人が唄っている時にはあまり耳を傾けないことを、歌壇の現状に当てはめて表現したものである。
歌人のはしくれである私は、S氏のこの表現を、まことに的を射たものと思っている。 だが、これは日本のカラオケのことであって、イギリスのカラオケのことではない。
クリスマスのカラオケ大会で私が選んだ歌は、F・シナトラの「MyWay」であった。 日本人が好んで唄ういわば英語の歌の定番だ。

私の番になって、皆の前に立ち、おもむろに私が歌い始めると、果たして、全てのイギリス人社員が一斉にこの歌を合唱し始めた。 スタンダードナンバーだから、皆歌詞を知っている。
マイクを握っているのは私だが、私の声はかき消されて聞こえない。 これではコンテストにはならない。
しかし、これがイギリスのカラオケだ。 ついでに書くと、このカラオケコンテストで私は一位になった。
大合唱に喧騒、という中で、私の歌声が審査員の耳にまともに届いたわけはない。 つまり、皆で気持ちよく合唱できる歌を選んだ功(?)が認められて一位になったとしか思えなしかし、この国の人たちは、カラオケは個人で楽しむものではないという共通の考えを持っているようだ。
それは、彼らがサッカーを個人でひっそりと見るよりも、大勢でビールを飲み、わいわい騒ぎながら見るのが正統な楽しみ方だと考えていることにも、似通っている。 サッカー同様、カラオケも一人で楽しむものではない。
大勢で一緒に楽しむ、いわば楽しみを共有する場と考えているようだ。 だから、一人が唄い出せば、それに合わせて大勢で合唱する。
イギリスは個人主義の国だが、一方で、彼らが友人を大事にし、社交的であるということは、らがよく、友人を招待し、ホームパーティを開くことでも分かる。 彼らは、自分の個人的な生の部分と、オープンな社交の部分をしっかりと区別して、使い分ける。

そして、カラオケは後を嫌う。

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